ビッグジョン岡山本社の某所。
そこには名前のない部屋があります。
書類倉庫として使われていた一室。
現在は過去の資料や古着、写真、販促物、ノベルティ、ミシンなど様々なモノが集積されています。
これらはちょっと前までビッグジョン本社や工場に散在していたもので、来年の70周年を機にここに一同に集めてきました。
僕が入社した時、「意外だ」と思ったことがひとつあります。
今でも鮮明に覚えていますが、それは長い歴史を持つビッグジョンなのにそれを証明する資料が少ないということ。
いや、正確に言うならば、資料は残っているが、整理されていないという方が正しいのかもしれません。
入社する前はズブの素人だったので、その先入観からかジーンズメーカーには博物館のような資料室が当たり前のように存在するのだと思っていました。
過去製造してきたサンプルや、データ、型紙、マニュアルなどまとめてあって、それを社員の誰もが閲覧できるものだと。
でも入社してそういうものは存在しないということに気付きました。
コンピュータで管理できるようになってからのデータはある程度揃っているものの、それ以前のデータは点在してるか消失しているか。
それはジーンズメーカーだけでなく、日本のアパレル業界をみても、そのような資料室を所有し、現在のモノづくりに生かしている会社はほとんどなく、むしろ激減しているそうです。
それはいろんな理由があるようですが、
ひとつは管理する担当者がいても、その担当者がいなくなった場合誰もわからないというケース。
社屋の引っ越し・移動などで資料を紛失してしまうケース。
火事などの災害で消失してしまうケース。
その他、様々なケースで失っていき、継承していくことの難しさがそこには見てとれます。
一方で歴史を重んじるヨーロッパや一部アメリカでは「ARCHIVE ROOM」、もしくは資料室の次元を飛び越えて「資料館」を所有している老舗のメーカーが多くあります。
1857創業 イタリアの帽子メーカー「Borsalino ボルサリーノ」しかり、今回アーカイブシリーズでお世話になった「コーンデニム社」しかり。
日本では京都の着物・織物・反物メーカーに多く見られるそうです。
ビッグジョンの場合はどういうケースかというと、「資料に手をつけていない」ケース。
上の町から現在の下の町へ本社を移動する時に多くの資料を紛失したようですが、それでも段ボールにしまってある資料や、数十本の古着など倉庫の隅でずっと眠っていました。
「幸運にもモノは残っている・・・」
小さな光だけれど、それはビッグジョンにとって大きな光。
そこで思い立ったら即行動。
倉庫として使っていたこの部屋を半分ほど借りて各所に散らばっている資料をひたすらかき集めました。
なぜこの部屋だったかというと、南西からの日光が入らず、空調管理できるメリットがあったからです。
あとで聞くと、いつの間にかいろんなモノが運ばれているので、映画「僕らの七日間戦争」のように、バリケードを組んで立てこもったのかと思われたそうです。
倉庫の一室に間借りして作った資料室、それが名前がない理由。
部屋に名前がないので、「資料室」や「アーカイブ室」、時には「あの部屋」「ナガミネルーム」と呼ばれることもあったりして、統一した名称はまだありません。
ただし、集めたはいいが、その資料について誰も素性がわからない。
それもそのはず、これらの資料についてリアルタイムで関わった先輩の多くはすでに退社しており、それを引き継ぐことなく段ボールに封をしたから。
手がかりといえば、僕が先輩から引き継いだ資料と話、そしてこれら倉庫に眠っていた膨大な資料達。
実は10年ほど前にも同じように過去の歴史をまとめる作業を行ったそうです。
今回それを手がかりにして、もっと詳しく、それは正しいのか間違っているのか、資料を穴があくまで調べ、OBのヒアリングをして仮説、そして検証と繰り返す作業が続きました。
この部屋の煩雑さを見てわかるように、作業の臨場感がかなり見てとれると思います。
博物館のように額縁やガラスケースに入れて眺める段階ではまだなく、現在進行形で日々研究しており、常に大きな机の上には資料が散らばり、気付いたことがあればすぐにメモできるようにしています。
最初は当然のようにビッグジョンを中心に資料を集め調べていきましたが、深く進むにつれ国内の作業服の歴史、中古輸入時代のアメリカジーンズ、70年代一斉に産声あげた他国産メーカーのジーンズにまで研究の対象は広がっていきました。
結果的にこの小さな部屋が「JAPAN VINTAGE」を証明する重要な部屋となっていくのを実感しています。
最初は個人的に資料を分析するために篭る「研究室」的な意図で作ったのですが、嬉しいことにほんとに多くの人達が足を運んでくれ興味を示してくれています。
社員、テレビ局、新聞社、雑誌社、取引先 etc さらには海外の方まで、ほんとに広く他業種の方に来ていただき、嬉しい限りです。
そして1970年代のスリムジーンズM3002をモデファイした「M3」、そして来年発売予定のM1002 アーカイブモデルはこの資料室を基地にして生まれていき、現在の企画とリンクしつつあります。
そろそろ「資料室」や「アーカイブ室」、「研究室」など部屋の名前を正式に付けてみたいところですが、未だにこの部屋の目的が明確でないために、どの名称をつけてもなんかしっくり来ません。
なので当面、名もなき部屋のままで突き進み、目的がハッキリとした時点で掲げようかと思います。
そしてこういう状況を見かねてか、他の社員からも「オレもこういうの持っているんだけど、資料室にいる?」と社員私物の貸し出しがいつの間にか発生し、かき集めても集まらなかったピースが徐々に集まり出してきました。
やはり社員ひとりひとりのパワーってすごいですね。感謝するばかりです。
最初は広く感じたこの部屋も、あっという間に資料の点数が膨れ上がり、手狭になってきました。
作業していても古着と資料に覆いかぶさられそうです。
資料数も増えてきていますが、部屋に足を運んでくれる来客も増えてきて、そろそろ接客も備えた部屋に引っ越しするかもしれません。
倉庫の間借りから、オフィシャルな部屋へ昇格できるか? ぜひ来年の動向に注目していてください。
ちなみにこの資料室。
本社に来た人しか見ることができないので、どうにかならないものかと熟慮に熟慮を重ねた結果、WEB化するようにしました。
こちらは名称が決まっていてその名も「DIGITAL ARCHIVE デジタルアーカイブ」。
目指すは田中凛太郎氏「My Freedamn!」のJAPANバージョン!システムはブログを使用するシンプルなものですが、これで皆さんにもどういうものが所蔵されているのか共有できると思いますし、暇な時にパっと流し見するだけでも結構楽しいと思います。
そして1940年の尾崎小太郎商店に始まり、マルオ被服時代、そして現在のビッグジョンまでの歴史が垣間見れると期待しています。
まだ数十点しかUPできていませんが、めざせ年間500点収蔵!ってことで根気強くUPしていきたいと思います。
公開は今月末予定です。ご期待ください。
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