児島といえばジーンズが有名ですが、
コーデュロイ・ベッチンで有名な地域は実は静岡県の磐田郡福田町になります。
(恥ずかしながら今回初めて知ったのですが・・・)
なんと国内生産の95%以上のシェアを占めるそうです。
デニムの製作過程についてはいろいろな現場などを拝見する機会が多いのですが、
コーデュロイ・ベッチンの製作現場となるとまたデニムとは違う世界になり、なかなか見ることはできません。
しかし幸運にもその製作過程を見る機会を得まして、コーデュロイの聖地「福田町(ふくでちょう)」に行ってきました。
新幹線の中でコーデュロイ・ベッチンについての資料を熟読し、いざ製作現場へ。
移動の車中の話の中でもその技術のすごさを感じていましたが、実際に見てみるとそれは想像を遥かにしのぐ匠の世界がそこに広がっていました。
【 経通し (へとおし)】
ヘルドと呼ばれる経糸を上げ下げする針金状のものに、指定された順序にしたがって経糸を通す作業です。
実際に真横で経糸を通すところを見させてもらいましたが、本当に気が遠くなる作業で、
自分がもしやったら一体何時間かかるのか・・・ たぶん途中で集中力が完全に落ちそうになること間違いなしです。
それでもさすがベテランの職人さんは手際よく、独特なリズムに乗って作業をしていました。
【 織 布 】
織機にて経糸と緯糸を交差させて生地を織る作業です。
ご存知の通り、デニムの場合は斜めに綾が走りますが、コーデュロイやベッチンは経方向に畝ができます。
また、デニムはどちらかと言うと経糸が表情の主役になりますが、コーデュロイ・ベッチンは表面が緯糸で覆われたパイル織物になり、その緯糸をカットすることで畝ができます。
何台もの織機が同時に可動しており、その一室に入るとまったく声が聞こえませんが、
職人達が歩き回って織り上がった生地を見ながら一台一台チェックしたり、微調整したりと予想以上に人間の勘が大きく左右してきます。
【 カッチング 】
畝状になっている緯糸をカットする作業を、コーデュロイでは「カッチング」、ベッチンでは「剪毛(せんもう)」と呼びます。
CD-Rのような円形のカッターが数百枚も並び、全ての畝を同時にカットしていきます。
ここもやはり人間の勘によって、微妙な感覚を調整していきます。
ほんの少しの差で緯糸が切れなかったり、また切り過ぎて下までカットしてしまうそうで、職人の方も相当気をつかう作業とのこと。
でも一番大変なのが、ひとつひとつの畝にガイド(畝の間を通す針)を通していく作業らしく、
経通しと同じくほんとに気の遠くなる数をひとつひとつ通していきます。
ガイドを通してカットしていく部分を拡大してみると下の画像のような感じで、畝をカットしていきます。
【 剪毛(せんもう)】
ベッチンの場合は押し切り方法で数畝ずつ順次に切っていく剪毛と呼ばれる手法を用いてカットしていきます。
剪毛は世界でもできることの少ない熟練した高度な技術を要する作業で、3つに分かれたコンパスのようなカッターで3畝ずつカットしていきます。
ベッチンの場合はコーデュロイよりも畝が極めて細いのですが、その細い畝に針のようなカッターを指し固定させ、原反を回すことによって畝が切られていきます。
これもどこに畝があるのかわからないようなところに極細のカッターを指していき、深く入り過ぎると原反を掘ってしまい、浅いと飛んでしまうそう。
一反の幅で約1500畝ほどあるので、3畝ずつ切っていき、500回も同じ工程を繰り返すという・・・。
驚くべき時間と手間が掛かる作業。
この高度な剪毛の技術も日本はもちろんのこと、世界でもほとんどできるところはないそうで、技術の継承が急務となっているそうです。
剪毛の極細のカッターを見せてもらいましたが、これも自分たちで作っているそうで、
この注射針のようなカッターを丁寧に磨ぎ石でメンテナンスしていきます。
そして畝をカットされた原反には山と谷がハッキリと現れ、おなじみのコーデュロイの顔に近づいていきます。
【 毛焼き 】
無駄な毛やパイルの長さをそろえるため、原反の両面を焼いていく作業。
想像以上の豪快な炎で焼いていきます。
近くによると炎の熱さというか、圧力がビシバシ伝わってきます。
【漂白・精錬】
毛焼き後、染色しやすいように、生地の不純物や汚れを苛性ソーダや活性剤などの薬品を使って取り除く作業。
毛焼きされた生地は焼いたパンのようにうっすらと茶色にこげ、この精錬・漂白を行なうことによってそのこげもなくなり、染色するのに適した状態になります。
この後は、赤や緑などに染色され、整理加工を行なって生地の完成となります。
国産のコーデュロイも相当少なくなってきているそうですが、もっと希少になっているのが国産のベッチン。
「十年後には国産のベッチンが作れないかもしれない」とおっしゃっていましたが、
工程や職人方々の声を聞くことで、その危惧も肌身を持って感じることとなりました。
今までその工程を見ることがありませんでしたが、今回過程を見ることでどれだけ手間がかかり、どれだけの技術が必要なのかということを少しでも実感できたことは大きな収穫でした。
デニム生地とはまた違った工程や手法も非常に興味深く、コーデュロイ・ベッチンという素材に対して改めて見直す良い機会となりました。
外国製のコーデュロイは畝がゴツゴツと角ばっているのに対し、
国産のコーデュロイは、多くの糸を使い目が細かく、毛羽が抜けにくいのが特長で、
ひとつひとつの畝がふっくらと丸みを帯び、肌触りも見た目も大きな違いがあるそうです。
長い間、秋冬の定番素材であったコーデュロイ・ベッチンですが、いつの間にか店頭から見なくなりました。
しかし徐々に70's 回帰の流れもあってか、昨年秋冬から一部でコーデュロイアイテムも久々に見かけるようになりました。
もともと個人的にコーデュロイは好きな素材でしたが、今回の機会で特に注意深く見るようになって、
気に入ったコーデュロイアイテムを片っ端から購入していったような日々でした。
ちなみにコーデュロイの語源ですが、17世紀フランス国王ルイ14世警護役の召使いの制服として用い、その美しさが評判となり、
Cord du Roi(コー デュ ロワ)ー王様の畝ー すなわち CORDUROY (コーデュロイ) となったそうです。
今年の秋冬には国産のコーデュロイ素材に要注目です。
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